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評者が行っているケアマネジャーや訪問看護師等との事例検討では,家族の健康問題や制度問題など,契約対象者外に業務上の困難感があることも少なくない。それこそ保健師の出番だと思うが,そうは言っても彼らの反応は冷ややか。「訪問してもらえない!」「当てにならない!」とはっきり言う。市町村合併により保健師の中央集約・縦割り・分散配置が進行し,無意識的に地区分担を放棄してしまった今日,家族をまるごと抱えて地区全体の健康に責任をもつ保健師本来の使命は崩壊の危機にある。本書に登場する上村聖恵氏から保健師教育を受けた私は“駐在保健婦”の表題に惹かれた。
著者の木村氏は「はじめに」で「保健婦という国家と国民のはざまに立つ存在に注目する」「保健婦駐在制は(略)戦時に生まれた制度を,戦後になって地域の事情に応じて継承したと考えるのが正しい」と述べている(下線評者,以下同)。戦中・戦後をとおして国家権力の厳しい指令と住民個々の命と暮らしを守ることとの矛盾に直面した駐在保健婦が,いかに行動したのかは,その語りの記述からまざまざと見えてくる。木村氏は「保健婦活動は国策の要請で制度化されたにもかかわらず,いざ現場に立つと目の前の個別な課題に対応するように迫られ,住民の要求に応えるべく活動せざるをえなかったのである。国家の意図と地域住民の日常のはざまにたった活動のありようは,(略)これまで見過ごされがちであったが,制限された状況下での保健婦の主体的な活動に対して,新たな歴史的評価を与えなければならないであろう」(p.41)と述べている。今日の保健師に“権力と国民のはざまに立つ存在”との認識があるだろうか? 住民の暮らしから遊離した位置に身を置き,持たされている権力を意識もせず行使する存在になってしまってはいないか? 身につまされる。
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