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はじめに
資本主義の自由競争原理が良いか悪いかの判断は,後世の経済学者が判断を下すでしょうが,現時点で言えることは,資本主義社会の行き着くところは,不平等さを明確化,拡大させることに他なりません。日本で暮らす限り,この資本主義経済のシステムのもとでは,成果主義が労働環境に大きく影響し,どのようなイデオロギーをもっていようと資本主義的な生き方を強いられざるをえないのです。労働者は,成果主義で評価され,賃金を決定され,経済的,社会的地位を確立するのですが,生活水準を維持するためには「勝ち続け」なければならないのです。
さらに問題なのは,人間が利便性を求め,それをかなえるために生まれた新しい仕事のなかにあります。これら多くは形として見えない成果物を提供する業務であり,その業務の評価がつけにくく,評価する側とされる側双方にとって非常にストレスを生み,ともに猜疑的になっていくという状況をつくり出していることです。このような状況のなかで働くことは,いつも「タイトロープ(綱渡り)」をしているのと同じで,がんばって仕事をすればするほどその「ロープ」は細くなっていきます。これでは,ちょっとしたことが原因でロープから脱落するのは当然です。明らかにストレスと自覚されるほどの負荷でないにもかかわらず,メンタル障害に至ってしまう理由の1つでもあります。文字どおりいつも張り詰めた状況から,一度脱落すればその復帰は容易ではありません。
前回のストレス対策のレクチャーでは,このような状況にならないような予防と予見に関することを説明しましたが,それでもメンタル障害は起こりますし,それによって休養を要する労働者を皆無にすることは不可能です。しっかりと復帰できるまで療養してもらうのは当然のことですが,その後の復職においてのフォローアップをいかに支援するかが復職の要です。
企業によってはすでに復職支援や復職プログラムなどを実施しているところもありますが,精神科専門医の意見を取り入れた取り組みをしているところはまだ少なく,実際はメンタル障害で復帰する人への配慮を怠ると「訴えられかねないため」の,形骸化したプログラムに過ぎないというものも少なからず存在します。すでに構築されたよいシステムでも,運用の悪さから宝の持ち腐れになっていて改善したいと思っている組織や,これから復職支援のプログラムを構築しようと考えている組織へのヒントとして,復職支援における考え方や復帰における配慮について,精神科医として,また産業医としての視点でみた,企業と労働者の双方が「不安でない復職プログラム」のモデルケースを提案します。
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