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はじめに
2006(平成18)年に高齢者虐待防止法が成立し,その具体的対応は地域包括支援センターが主導的役割を期待されることとなった。しかし「高齢者虐待への対応について誰に相談すればよいかわからない」と困った経験のある保健師は多いと思う。現在の日本には,高齢者虐待について専門的かつ実践的な訓練を行うシステムはない。つまり高齢者虐待対応についてはだれもが素人,といったような状態であり,ベテランたちも事例を前にして右往左往するなかでスキルを磨いている。スキル向上のためには関係者間での事例検討(地域の関係者を集めた個別ケース会議)がぜひとも必要である。多様な立場の多様なスキルをもった多職種間で事例検討を行うことにより,援助職のスキルの向上が期待できる1)。しかし実際にどのように事例検討会を運営すればよいかの具体的なノウハウは示されていない。
福島県福島市では高齢者虐待事例検討会を2006年4月から年5回開催している。この事例検討会は地域の援助職から選ばれた代表(企画委員)と市の高齢者担当(長寿福祉課長寿支援係)の職員による企画委員会によって運営されている。企画委員は市内の地域包括支援センターのスタッフから選ばれた約10名で構成され,事例検討の対象事例の選定から,検討会の進行など,検討会の運営方針に関するすべての決定を行っている。
福島市で行っている地域の援助職の合議制による運営方式(以下,福島モデル)は,首都圏などと違って大学の研究者や心理専門家などの援助を受けにくい地方の自治体が,高齢者虐待関連事業を運営するうえで参考になると考える。そこで福島モデルの成立過程,運営上の注意点について若干の考察を交えて報告する。多額の予算や特別な人的資源がなくても事例検討会を立ち上げ,運営できることがご理解いただけると思う。本稿が他の地域で事例検討会を立ち上げたり,運営したりしようとしている方のお役に少しでも立てば幸いである。
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