病気のある風景・8
かえらない山,かえらない川
徳永 進
pp.519-524
発行日 1980年8月25日
Published Date 1980/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663907471
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4月上旬,桜の花が3分咲きのころだった.X線室で腎動脈撮影をしていると,‘先生,岡山の山下さんという方が面会です’と,窓ガラス越しに声があった.検査衣を着替えて玄関へ行った.‘やあ,どうも.山下です.1泊2日で帰ってきました.総勢3名です.これからまつえ姉さんの生まれ故郷へ行って,夜,駅前の旅館に泊まります’
‘そうですか.それじゃあ回診を早目に終わって旅館に顔を出します’
とぼくは言って,3人を乗せた車は病院を出発した.山下さんたち3人は,瀬戸内海の長島にあるらい療養所に暮らす人たちで,県の実施するらい者の里帰りで鳥取に帰ってきたのだった.
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