邦樂への道・1
序にかえて
唯是 震一
pp.36
発行日 1953年6月1日
Published Date 1953/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200367
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序にかえて
一口に邦楽とは云うものの,その範囲は非常に広いのです。第一私にとつて邦楽という言葉の使用を余り好まないのです。凡そ音楽には古今東西を通じて楽譜云い換えれば,五線譜という共通語を持つた一つの国際性を有する所謂芸術の一つなのですから。しかし勿論各国民或は各民族に依つて,その各々の気候,風土及び習慣そして全ゆる環境の差異によつて夫々異つた発展を示してはいるのであり,従つて西洋音楽と東洋音楽。そして又東洋の音楽を分けて,中国音楽,印度音楽,蒙古音楽或は台湾音楽等等区分する事は極めて合理的な分類であります。けれども日本音楽と云う語を多く使用する代りに邦楽と云う言葉が大衆化されているのは何うした事なのだろう。唯單に邦家の音楽と云つた一つの虚栄的な使用法に依つたものだろうか。
とにかく邦楽に関する,記事を,という御依頼でしたので,余り「へりくつ」を並べずに,大人しく邦楽と云う語を使用する事にしました。前述しました樣に邦楽の中には,箏,尺八,三絃(三味線)を中心とした三曲から,長唄,小唄,端唄,常盤津,義太夫等等,枚挙に遑がない程に,その種類は多いのです。従つて先ず,私にとつて最も述べ易いそして又皆樣にも比較的理解し易い箏の普楽に就いてその起源から箏曲の鑑賞にまでなるべく平易に記述してゆく事に致します。
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