人間と科学との対話
身体と自己(2)
市川 浩
1
1明治大学
pp.327-331
発行日 1977年5月25日
Published Date 1977/5/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663907098
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思春期における自己分裂
思春期になると身体が急激に成熟します.外面的な身体の特徴の上でも,内面的に感じられる欲望の面でも,未知の自分が生まれてきます.そこで自分だけが知っているかくされた内面が,身体的な徴候を通してあらわにあらわれ,人に内面を見通されるのを恐れます.これまで無邪気に裸になっていた子供も,裸を意識し,裸になるのを恥ずかしがるようになるでしょう.小学生時代には,身体と自分との間に大きな亀裂(きれつ)はありません.ところが思春期になると身体と自分との関係が不安定になり,一方では身体面で自己顕示したいという気持ちと,他方では身体にあらわれる自己をかくしたいという気持ちが相克し,一方の極端から他方の極端へ走ったりします.身体の延長である髪型やお化粧や服装についても同じことがいえるでしょう。目立ちたいという欲求と目立ちたくないという気持ち,‘てらい’と‘てれ’,あるいは自己顕示欲と恥ずかしがりといった両極的な感情が渦巻いているのがこの時期の特徴です.これまで潜在的であった内面的な自己と外面的な自己の分裂が,自分自身にもはっきりと自覚されます.かくされた秘密をもっているという思いが,この時期特有の理由のわからない後ろめたさや罪悪感の原因にもなります.自分に対しても,小学生時代はほぼ自己肯定的ですが,思春期には,自己嫌悪に陥ったり,自己否定的な態度をとることは珍しくありません.
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