自己自身として生きるために/人間学的断想・11
‘死’について
谷口 隆之助
1
1元:八代学院大学
pp.332-336
発行日 1977年5月25日
Published Date 1977/5/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663907099
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自然現象としての死
生あるものはみな死んでいく.わたしたち自身もやがてみな死んでいく.そしてわたしたちはみんなそのことを知っている.けれども,わたしたちがみんなそのように死について知っているということは,わたしたちが自分以外の他の動物や他のひとの死ぬのを見たり,また植物が枯れるのを見たりして,死ということを知っているという知りかたである.わたしたちは生きているかぎりは自分自身の死を体験することはできないのである.わたしたちが自分自身の死を体験するとき,わたしたちはすでに死んでいるからである.またわたしたちは他のひとの死や他の動物の死に直面しても,その死を死それ自体として体験することは決してできないのである.その死は他のひとの死であり,他の動物の死であって,自分自身の死ではないからである.
それゆえに,死ということを知っているといいながら,わたしたちは一般に,他のひとや他の動物が死んでいくのをその外側から見,眺めることによって死という現象を知っているだけなのである.言い換えれば,ひとはだれでも死ということを知っているというとき,それは,ひとはだれでも自然現象としての死は知っている,ということなのである.自然現象としての死ということは,単にいわゆる‘自然死’ということではない.
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