連載 診療所日誌・11
老いるのは切ない
小笠原 望
1
1大野内科
pp.970-971
発行日 2005年11月1日
Published Date 2005/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688100239
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「先生,堤防の下の道のそばに大きなクスノキがあるでしょう。あそこに2週間に5回も,葬儀社の道案内の看板が立ったんですよ。今年の夏から秋にかけて,人がよう死にました。それも,自分よりも歳下の人がほとんどで,気持ちが落ち込んでしまいます」
90歳の山本さんが,ぽつりぽつりと診察中に話をする。嘆いているようでいて,そう湿っぽくはない。山本さんは,散歩を欠かさない。それも,散歩の途中で四万十川の堤防に必ず上がるのだそうだ。隣に住む中国から働きに来ている若い人に,「もう長いこと生きられんかもしれん」と言ったところ,「あなたほど歩いていたら,そう簡単には死なないでしょう」と答えてくれたと,にこにこと話を続けた。そういえば,クスノキの近くの堤防を走っていて,姉さんかぶりで堤防の斜面に腰かけている山本さんを見かけたことがある。
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