自己自身として生きるために/人間学的断想・7
不毛な思い煩いについて
谷口 隆之助
1
1八代学院大学
pp.58-62
発行日 1977年1月25日
Published Date 1977/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663907061
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不毛な思い煩いということ
おそらく,ひとはだれでも,さまざまの生きる悩みを経験し,そのためにさまざまの思い煩いに身を焦がした経験をもっているであろう.たとえば,わたしたちはしばしば,対人関係の難しさに悩んだり,過去のさまざまの重荷にあえいだり,あるいは明日のこと,さらに遠い将来のことを心配してさまざまに思い煩ったりする.いまそのような状態にあるひとも大勢いるであろうし,またそのような経験を重ねてきたひとも決して少なくはないであろう.それは,まさに,わたしたちが人間であるゆえの,生きる悩みであり,また思い煩いなのだ,と言ってよい.そして,わたくしたちは,そのような悩みや思い煩いを経験しつつ,そしてそのような悩みや思い煩いを少しずつ超えながら,‘生きる’ということを次第に深く体験していくのである.
けれどもまた,人間とはまことにわがままで弱いものなのである.それゆえに,ひとはまたしばしば,自分がいくら思い煩ってもどうにもならないことまでをあれこれと思い悩み,それをなんとかしなければ自分がまったく生きられないかのように思いこんで,思い煩うのである.そして,その思い煩いに振りまわされ,その思い煩いに埋没して,自分を失い,ただ神経を消耗させるだけで,そこから1歩も出られなくなってしまうのである.
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