文献抄録
われわれは治療学における不毛の"暗黒時代"に突入しつつあるのではなかろうか—JAMA, 18, 1967 Editorialsから
浦田 卓
pp.858-859
発行日 1968年7月10日
Published Date 1968/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402202298
- 有料閲覧
- 文献概要
はじめに
現代アメリカ哲学の一派である"客観主義哲学"の創始者たるAyn Rand女史によれば,こんにちの輝かしい科学文明を築いた源泉は,有史以来わずか数百人をかぞえる天才の頭脳にひらめいた偉大な"アイデア"であるという.なるほど,無数の民草の労働がなければ,偉大なアイデアから文明の花の咲くよしもないが,単純な労働だけでは,こんにちのけんらんたる科学文明が開花しなかったであろうことも,また事実であろう.
さて,科学史をひもとけば,だれしも気がつくように偉大な科学的アイデアが生まれたのは,主として,古代ギリシアの社会と産業革命以後の資本主義社会においてであった.これらの社会のもっともいちじるしい特徴は,研究の自由,発表の自由,特に批判の自由が,他の社会に比べて大幅に許されていたという点である.しかるに一方,歴史上"暗黒時代"とよばれる,かのキリスト教独裁下の中世は,その名の示すとおり,科学的アイデアの"不毛"な時代だったのである.
Copyright © 1968, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.