自己自身として生きるために/人間学的断想・1
人間理解の問題
谷口 隆之助
1
1元:八代学院大学
pp.451-455
発行日 1976年7月25日
Published Date 1976/7/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663907008
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まえがき
‘人間’であるということは,わたしたちが終始‘自己自身’としてあることだ,とわたしは見る.けれども,それと同時に,わたしたちがいまそれぞれの実際生活のなかで,ほとんど自己自身としては生きられなくなってしまうているということが現代の一般的実情だ,とわたしは見るのである.
わたしたちの生活は,ほとんど,現代の文化的・社会的パターンのうちに組み込まれたままで,ただそのすじ書き通りに動かされているにすぎない,と言ってよいであろう.もちろん,そのためにわたしたちは意識的・無意識的にさまざまの抵抗を試み,またあちわしてはいる.けれどもそこで,わたしたちは,自分がいかにして真に自己自身としで生きうるかということにはほとんど心を向けず,ただ自分の外側にだけ目を向けてさまざまの不合理や矛盾を数えあげ,社会や他人(ひと)の非だけをならべて,これらの自分め外側のさまざまの問題の解決がなければ生きられないという思いにとらわれて右往左往するのである.
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