自己自身として生きるために/人間学的断想・6
人間における危機的状況としての‘病気’
谷口 隆之助
1
1元:八代学院大学
pp.782-786
発行日 1976年12月25日
Published Date 1976/12/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663907052
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ひとつの危機的状況としての‘病気’
だれでも,一般的には,病気であることは不幸なことだ,と考えているであろう.確かに,わたしたちにとって,病気であるよりは健康であることのほうが望ましいはずである.健康であれば,病気の苦しみもなく,病気の痛みもなく,それだけ日常生活も順調であろうし,仕事に精をだすこともできるであろうし,また旅行をしたり,スポーツを楽しんだりすることもできるわけである.
しかし,病床にあるひとは,そのひとが病気であるということのために,さまざまの制限を受ける.仕事はできず,旅行もスポーツもできない.そのうえ,病気であるために経済的に困窮することもあるし,家族を路頭にまよわせることもある.しかも,そればかりではない.病人自身が,病気であることによってさまざまの欲求不満におちいり,神経をいらだたせ,焦燥や不安にさいなまれ,死の恐怖にとりつかれることもある.
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