文学の中の看護
エゴイズムと愛の間に—夏目漱石著“こころ”
清水 昭美
1
1大阪大学医療技術短期大学部看護科
pp.182-187
発行日 1976年3月25日
Published Date 1976/3/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663906973
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はじめに
漱石の“こころ”は,大正から昭和を通じての,日本のベストセラーの1つといってよいであろう.極めて繊細な神経を持った,明治のインテリの‘K’と‘先生’が,‘お嬢さん’(のち先生の妻)をあいだに置いて,いかに死への道を歩んでいったか—が,漱石流の構成と淡々とした筆致で描かれる.
だれにでもあるエゴイズムをこのように考え詰めていくと‘死’に至らざるを得ないのだという感銘が,時代を超えた名作とたたえられてきたゆえんであろう.漱石の後期の作品に次々に表現される‘やり場のない苦しみ’が,この小説に至って自殺という1つの解決の道を開いたことでも名高く,漱石に対する評論の焦点ともなって,これまでに解説も数多い.ここでは,登場人物を追いながら,その人間関係がどのように2人を自殺に追いやったのか,‘心の揺れ動き’を見つめながら,それを未然に防止できたとしたら,だれにどんな手段があったのかを中心に,広く看護の観点から論じてみたい.
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