連載 おとなが読む絵本——ケアする人,ケアされる人のために・191
子どもの空想世界こそ森と人間の深い関係を語る
柳田 邦男
pp.706-707
発行日 2022年8月10日
Published Date 2022/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686202221
- 有料閲覧
- 文献概要
私は,北関東の田舎町の生まれ育ちだったので,田んぼや森や里山は,なじみの遊び場だった。家は町はずれにあり,庭の生け垣の向こうは,遠くまで広がる田んぼだった。通りに面した境には,白樫4本と銀杏3本が並べて植えられていたが,庭の周囲には,柘榴,甘柿,渋柿,無花果,杏子の木がそれぞれ1本ずつあった。
杏子の木はかなり大きく,春に桜のような花をいっぱい咲かせた姿は,私が生まれ育った故郷の懐かしいいくつかの風景の1つとして,今でも鮮やかに思い出す。それでも子ども時代に格別好きだったのは,柘榴の木だった。背丈はあまり高くなく,木肌が百日紅に似て平滑で,枝が頑丈なので,子どもが木登りをするのに向いているのだ。わが家の柘榴の木は,高さ2メートルくらいのところで手の平を広げたように4本の太めの枝が四方に広がっていたので,私は木登りをして,細めの角材や板を運び上げ,荷造りひもでそれらを枝に縛りつけ,子ども1人が入れる広さの壁のない樹上小屋を作った。当時,ターザンの映画がヒットしていて,私もターザンにすっかり魅せられていたので,柘榴の木の樹上小屋を「ターザン小屋」と名付けた。
Copyright © 2022, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.