連載 社会思想史の旅・4
宗教改革と資本主義の精神
田村 秀夫
1
1中央大学経済学部
pp.37-41
発行日 1969年2月1日
Published Date 1969/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663906127
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法王庁とフッガー家
中世キリスト教社会のピラミッドの頂点にあったローマ法王庁は,身分的に固定した社会秩序の破壊へ導く「法外の所有欲」を「食欲の罪」として非難する建前であったが,現実には,貧欲に仕えたのは世谷の商人や高利貸ばかりではなかった。14世紀には僧禄付僧職の集中によって,多くの高位聖職者のもとに一種の富の「蓄積」が行なわれた。「あるものは200,他のものは300の僧職を兼有することは,まったく忌むべきことである」と指摘され,また法王ウルバヌス5世は,個々の僧職が「忌むべき過度の大量において」所有すると非難している。
だが,じつは,ローマ法王庁自体が無比の食欲ぶりを発揮したのであって,ローマにおいては,あらゆるものが売却の対象となった。ひとびとの従った福音書は聖マルクの福音書ではなくて,じつに銀マルクの福音書であった。「法王のところにくるときにや,しかと心に留めといで,そこは貧者の席でなく,与えるものが福の神」といわれていたが,法王庁は,ある意味では,中世最大の金融機関であり,その財政組織が複雑になるにつれて,事態は悪化し,その悪名は名高いものとなった。そして,その頂点に達したのが,当時ヨーロッパ最大の高利貸であったフッガー家との結合による免罪符の販売であった。
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