焦点 隣接諸科学における基礎的文献
文化人類学の基礎的文献
吉田 禎吾
1
1東京大学・文学部
pp.116-118
発行日 1971年4月15日
Published Date 1971/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681200233
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1)オスカー=ルイス著,高山智博訳「貧困の文化――五つの家族」(新潮社,1970)
著者オスカー=ルイスは,現在アメリカの一流の文化人類学者の一人に数えられている。彼は1943年以来メキシコの研究にたずさわり,家族の研究に新しいアプローチを確立した。この研究成果の一つが本書である。この本は専門的な文化人類学の報告書とは違って,まるで小説のような体裁を備えている。ルイスは,家族の成員一人一人の詳しい自伝を通じて,家族の生活や動態をとらえ,しかも個人の意識,見方,感じ方を探っている。したがって一人一人の人間のイメージが,小説に登場する人物のように鮮明に描きだされている。だから,家族の形態,婚姻,相続などの数量的な資料に基づく社会学的な研究や,特定の民族における家族の夫婦・親子関係,居住規制,親族関係,生業との関連などに関する構造的,機能的な社会人類学的分析とは異なり,一般の読者にも興味深い読物ともなっている。
本書はバルザックの小説を思わせるようなおもしろさがあり,しかも登場人物はすべて実在の人物であって,出来事はすべて現実に起こったものばかりであるという点で,ある意味では小説以上の感銘を与える。著者ルイスの用いた研究法は,彼自ら"羅生門式手法"と呼んでいるものである。これは"家族の各構成員の長い詳しい自叙伝を通じ,その家族を各構成員の眼を通じてとらえるという手法"なのである。
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