昭和40年度看護教育研究会夏期講習会集録
自己を生かす(続)
森 進一
1
1関西医科大学
pp.33-38
発行日 1965年12月1日
Published Date 1965/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663905535
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漱石の作品にみられる自己
漱石が英国人が気に入らないといったのは,典型的な自覚精神の現われである。自分が日本人であることを忘れない,いつもこれを見つめていていい気にならない,というのは,一種の自覚精神である。これは作品の中にもずいぶん出ていて「わが輩は猫である」の第5巻ぐらいかと思うが,イビキをかく奥さんと歯ぎしりをする女中さんの話がある。イビキのことは書いておらないが,猫が見ておって,いつも女中が激しき歯ぎしりをする,これを他の人が注意する。女中さんは「いいえ,わたしは生まれてからいまだかって歯ぎしりというものをしたことがございません」と,なるほど寝ているときにするんだからわからないだろうけれども,せっかく人がいってくれてるんだから考えたらどうだろうといっている。話はそれでいいが,そのあと引き継いで,これと同じことが世の中にはずいぶんあって,自分でわるいことをしておきながら,自分はいつも正しい,正しいと思っている人がずいぶんいる。歯ぎしりはまだいいとしても,こういうのになると,はたが迷惑する,と猫が批判している。ここでも他人は自分のあやまちがわかるのに自分ではわからない,一種の自覚できない,無意識の流れにたいして,警告している。そういう観点から作品を読むと,「気をつけないと危ない」ということばが,かなりあちこちに拾われる。
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