教育のひろば
人間の問題と生命尊重
森田 宗一
1
1東京家庭裁判所
pp.1
発行日 1965年4月1日
Published Date 1965/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663905433
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わが国では一般に,人間の心と体の問題,あるいは社会の病理現象に対する見方が浅く,視野が狭い。その根本の理由の一つは,問題の人間ということだけに目が向いて,およそ人間とは何ぞや,という根本が置き去りにされているからであると思います。人すべてがそれぞれの問題を持っているわけで,ある特定の事件を起こした者と紙一重,五十歩百歩の違いに過ぎない。それを,特別にその人だけを問題視するということから,かえって本質的な問題が置き忘れられてしまうのです。もっと深く人間の問題を見る目を養い,而る後特定の個々の事例について,観察し取扱っていかねばなりません。異常な現象や解し難いことが起こると,簡単に変質者などときめてしまって,人間そのもの,その背景にある人間関係の問題が置き忘れられるのです。
“人間とは何か”ということは,人生観・世界観につながる問題ですが,何よりも人間は,生物(いきもの)であり,人格を持った生物である。肉体と精神とを持った不思議な存在である。この簡単な道理を深く洞察して,いつもさまざまな現象をみるということが忘れられてはなりません。どうもこのごろの育児,教育,医療というようなことをみていると,その心と体の微妙な結合体であるという人間を忘れて,まるで,ただ物体か何かのように見ている傾向があるように思います。その心なきことから,さまざまな病理現象が現われているということは,臨床を通じてみれば,“思い半ばに過ぐ”といっていい事柄であります。
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