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主張 生命尊重のモラル
pp.1
発行日 1950年11月15日
Published Date 1950/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906735
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土の中に埋められだ干からびた小さな種子が,一定の時がたつと其の内なる生命は芽をふき,愛らしい双葉をもやし,陽と雨を受けてすくすくと育ち,蕾をもち,花を開き,實をみのらせていく。一言も語らないが,法則通り,絶間なく動いて成長していく.造化の妙というか,生命の神秘というか,如何に人間が科學的に進歩にしても,とゞくことの出來ない唯一の勝利,生命の不可思議はそれ故にこそ最も尊い存在なのであります。
誰の胸にも逸話として語り傳えられているかの楠一家の物語り。あの頃の風習として,正成はどれ程長男正行を戰場に伴いたかつたか,又正行も初陣のよろこびと興奮に如何ばかり小さな胸をときめかしていたことか,併し,之をよく耐え,教えさとして歸したあの櫻井の驛の正成の心情は,忠誠を父子二代に互らせる目的であつたのですが,それは犬死をいとい生命を尊んだ所以で,生きていてこそ,忠義も孝行も可能であることを示しているのであります。若年の正行は,まだその眞意を解し得ず,歸宅と同時に自殺を企てて母にとめられた。夫正成の心を正しく理解し得ていたこの母は又,まことに賢く偉大であつたと思います。此處に,根強いヒユーマニズムが底を流れているのを感じます。
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