教育のひろば
私だけの部屋
大山 敏子
1
1津田塾大学
pp.1
発行日 1964年11月1日
Published Date 1964/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663905371
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女子学生亡国論とか女子大生無用論とかいう声がおりおり週刑誌などをにぎわしている。女子大学卒業生によい職場が与えられないなどということがニュースになったりする。研究か家庭か,職業か家庭かという問題が学生たちの間でもさかんに討論される。どうせ家庭に入り,妻となり,母となるのに,何の関係もない専門の学問をきわめて何になるのだろうかという声もきこえてくる。大学に入学して1年,2年たつと,夢や希望に胸ふくらませて来た学生たちが,矛盾や幻滅や虚無感に苦しめられはじめる。そしてこれは必ずしも学校や教師や講義などに対する具体的な不平や不満によるものばかりではない。世の中がわるいのだから仕方がないとあきらめてしまう学生,サークル活動に情熱のはけ口を求めて勉強からはなれていく学生,何の批判もなく機械的にその日その日の予習復習に追われる学生,誰しもこんな時代を経験するものだなどと思いながらも,何か女の宿命みたいなものをそこに感じ,こんな生活の中に彼らの無限の可能性が没し去られてしまわねばよいがとひそかに案じ,ひそかに祈る私である。
学生たちと教室で,バージニア・ウルフの「私だけの部屋」という作品を読んだ。女性が経済的に独立しないかぎり,知性の独立はあり得ないし,知性の独立なしには自分自身のものを創り出すことはできないということが書かれている。「私だけの部屋」は経済的の独立を象徴する。
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