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「やりゃー、やれる」
長谷川 泉
pp.29
発行日 1962年3月1日
Published Date 1962/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663904158
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昔の一高に森巻吉という名物校長がいた。全身気魄といったような快人物であった。私が一高に入った時には森校長は病気で学校には出ていなかった。森ケン(当時,愛称として,そう呼ばれていた)はけっきょくその夏に校長を辞し,橋田邦彦校長にかわった。したがって,私は,直接森ケンから教えを受ける機会はなかったわけである。ただ森ケンには一度会った。それは,校長をやめてから,寄宿寮の晩餐会に招待することになって,出席の依頼に鎌倉の私宅を訪ねたからである。森ヶンは,けっきょく晩餐会には出なかった。病気が悪かったからである。まもなく不帰の客となった。
森ケン(誰も森校長とも森巻吉先生とも言わなかった)のことばに「やりゃー,やれる」というのがある。当時の一高生は,常に「やりゃー,やれる」という,この森ケンのことばをモットーらしていた。ナポレオンのように,一心こめてやれば不能のことはないというわけである。「やりゃー,やれる」—ことばは短いが,その中には男子の意気がこめられていた。われの行なわんとするところに不能のことなしという気魄なのである。当時の一高魂の底には,この「やりゃー,やれる」とつうことが力強く流れていた。
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