焦点
自分の夢
山下 道輔
1
1国立療養所多磨全生園図書館
pp.624-625
発行日 2001年8月25日
Published Date 2001/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663902557
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今から60年前,12歳のときに父親と全生園に来たので,姉とすぐ下の弟と妹とその下の弟2人の5人の子どもをお袋は1人で育てた.自分が若いとき父親は園で亡くなった.昔は時々お袋が姉と妹を連れて来てくれた.お袋はボケがきても自分のところにだけは1人で来てくれていた.そのお袋が来ないからボケがすすんだのかなあと思っていると,2年前にお袋が亡くなっていたことを妹より知らされた.自分はお袋っ子であったから,姉妹が自分に知らせれば飛んで来るだろうと想像して悩んだんだと思う.知らせなかったということは,やはり知らせられない事情があったんだと思う.
その姉が今,脳の病気で意識もよくないらしいが,姉の家族のこともあるし,電話もできない.妹からの連絡を待つだけだ.その妹のことをお袋は,「銀行員と結婚して幸せに暮らしている」と脚色して自分には話していた.「しばらくはいっしょにやっていたけれど,そりがあわなくて別れて,今は1人なんだ」というようにも聞いていた.お袋が死んだ後に「お母さんそんなこと言ってたの,ず一っと独身よ」と言った妹が,すぐ下の弟が死んだときは知らせてくれた.2人の弟は今でも自分のことは知らないでいる.園内でも少しは差別,無視があったが,この中にいる限りは入所者ばかりなので,直接の差別,偏見の風には当らなくてすんだ,けれど,社会で生活しなければならない家族はそうはいかない,自分より大変だっただろうと思う.
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