- 文献概要
小學校に入つてからも,可成り高學年になつてまでも毎年たのしんだ記憶ですが,それは,お正月の2日の晩寢む前に,きれいな折紙で寳船を折つてそれを大事に枕の下に入れ,枕を2,3度輕くたゝいてねたこと。こうすると初夢によい夢をみて,其の年は1年中よいことがあると,大好きなおばあさんからきかされて,小さい姉弟3人が思い思いの色で,ていねいに1折1折心をこめて折りあげた寳船,ねてからもそれが氣になつて何度も何度もそつと手を枕の下にのばして,船があると安心したことをなつかしく思い出します。「一富士・二たか・三なすび」の例えの通り,いゝ夢をみたい,1年中いゝことがあつてほしい,と,其の年の幸を夢みていたわけです。
雪ばかまをはき,衿まきに深々とあごをうづめて雪の道を,トボトボと,何時わかつてくれる目安もつかない山奧の農家を,1軒1軒訪れて足をひきづつた時代の保健婦の夢は,榮養不良のやせこけた赤坊が,丸丸と肥つてとび廻わる日を,しいたげられている若い嫁が,のびのびと身重な體をやすめられる時を描いていたことでしよう。愛育指定村が出來,衞生模範村が生れて,少しづつ組織的に村民の健康がまもられるようになつて,農村保健婦の夢は實現しました。報われることの少い困難な道をふみしめふみしめ,努力をつゞける同行の保健婦たちの團結が,何年か後に大きなむくいとして實現しました。
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