焦点
問われている故郷愛
徳永 進
1
1鳥取赤十字病院内科
pp.605-609
発行日 2001年8月25日
Published Date 2001/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663902552
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ハンセン病の元患者さんたちが国を相手に「国家賠償法訴訟」を起こし,熊本地裁で国の誤りが認められ勝訴し,政府が控訴断念を発表して2週間が経つ.まだしばらくは,1人ひとりの補償額をめぐって熱い日々が続くだろう.ハンセン病のことでこれだけ熱い風が吹くのは,日本のハンセン病史上初めてではないかと思われる.予想しなかったこの一連の動きを,少し冷めた気持ちで見つめようとしているが,熱い風が吹けるなら,なるべく長く吹いたほうがいいし,国会や裁判所という特別なところだけでない場でも可能な限りの熱い風が吹いて欲しいと思う.あまりにも長い時間,ハンセン病者の周りには,冷たい風しか吹いてこなかったからである.
今回の裁判で取り上げられた言葉には,強制収容,隔離,偽名,断種術,らい予防法など,いくつかの鍵言葉(キーワード)があるが,多くの人が心に留めた言葉として“不作為”があると思われる.人間性を奪われた状態にしておいて,誰もが何もしなかったという“不作為”である.これは重要な鍵言葉だと思った.誰に対して?国会議員?そんなことではないだろう.国民1人ひとりに対してだろう.国民1人ひとりに“不作為”を問うている,と受け止めるべきだろうと思われる.
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