特集 医療倫理を学ぶ―21世紀における看護者の教育
第3部 事件から学ぶもの
在宅療養を前に何がなしえるか―ソーシャルワーカーの立場から
堀越 由紀子
1
1北里大学病院総合相談室
pp.938-942
発行日 2000年11月30日
Published Date 2000/11/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663902390
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はじめに
本学の奥野ゼミ主催の模擬裁判では,医療にかかわる場で人が人を死に至らしめ,裁判に至った実例が題材になる.過去のできごとにたいして,ああするべきだった,こうするべきだったと評論するだけなら,たやすい.しかし,そのたやすさは,日々営まれている何の変哲もない行為に対する医療者の無感覚さに共通しているのではないかと,筆者は模擬裁判を通して強く恐れるようになった.それは,模擬裁判という方法が,判例が何年前のものであろうとも,個々の事件のもつ重苦しく悲しい空気を,裁判記録を読み解いていく私たちに呼吸させるからなのだろう.
とりわけ,ここ数年とりあげてきたのは,それこそ“どこにでもいるような”脳血管障害患者をめぐる介護殺人の判例である.筆者も,同病の患者さんには数多くかかわってきたし,この例のように身体の麻痺も失語症も重度の患者さんは少なくなかった.もちろん,それらと殺人に至ってしまったこの例とは,結果において明らかに一線を画している.しかし,患者や家族の苦難が筆舌に尽くし難いものであったことにかわりはなく,そのことをどれほどわかっていたのかと思うと痛恨の思いがある.
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