連載 とらうべ
何よりも害をなさぬこと
須磨 忠昭
1
1メディアーク経営研究所
pp.189
発行日 2001年3月25日
Published Date 2001/3/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611902598
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人の命を救うはずの手術や投薬が,逆に人の命を奪う凶器になることも時にはある。私たちは不安で仕方ないが,医療はもともと,こういう風にとても危険なバランスの上に成り立っているのだ。というのも理由はいとも簡単で,医療行為の多くが世の中で言う傷害や暴行と全く同じ形をしているからだ。たとえば他人の胸や腹部をメスで切り開いたり鼻にチューブを突っ込めば,世間では明らかに暴行傷害や殺人的行為だ。ところが医療の世界ではこれを手術とか療法と呼び,国家の免許を持つプロの医師や看護婦が,相手(患者)から同意をとりつけてさえいれば,賞賛すべき崇高な人道的救命行為になる。
しかし,行為そのものは,呼び方がどうであれ,まぎれもなく傷害であり,免許や相手の同意があろうとなかろうと,医療スタッフが他人に危害を加え,しかも新しい苦痛も与えるという「加害者」の立場に立っていることは確かだ。だから彼らは,この立場の認識と行為そのものの殺傷性ゆえに,「何よりも害をなさぬ」と誓う。これはスタッフの良心であり,他人(主に患者)に害を与えていることへの“原罪的”な意志表明でもある。
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