時事を読む
―日米の医学教育・医療制度の比較からみる―医療過誤問題・1
中野 次郎
1,2
1仙養会北摂総合病院
2神戸大学医学部
pp.748-753
発行日 2000年10月25日
Published Date 2000/10/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663902354
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最近,多くの医療事故がマスコミで報道され,患者のみならず,医師の間にも医療行為に対する不安が激増してきた.しかし,多くの医師が指摘しているように,医療過誤は新聞やテレビで報道されているように,症例が激増したのではない.患者が従来の医師のパターナリズム(父権主義)から離脱して,医療過誤の公開を要求する人権主張により,過去において隠匿されていた医療事故が明るみに出てきたからなのである.それと同時に,マスコミが医療事故を真剣に取材し始めた結果,いわゆる医療危機と呼ばれる現在の状態が出現したと言ってよいであろう.その点で,1960-1970年代の米国に類似点がある.
かつて日本の医師は,「医は仁なり」という儒教的な格言を持って患者を診療していたが,この倫理的な理念には,行動が伴わないことが多かった.戦後の変化してゆく複雑な医療の場においても,患者は裁量を主張する医師に従属せざるを得なかった.しかし,最近の経済ビッグバンとともに,医療制度にもディスクロージャーが強要され,医療界に大きな改革が起こりつつあることは確かである.もし,従来のように医師が患者に発言権を与えないならば,医師と患者の関係に溝が深くなり,IT時代の到来とともに,医療に重大な軋櫟が起こってくることは否定できない.
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