連載 薬理学―見方をかえたら・9(最終回)
情報化社会と薬の裏表
堀 誠治
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1東京慈恵会医科大学薬理学講座第1
pp.227
発行日 1999年3月25日
Published Date 1999/3/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663902038
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最近になり,毒物・薬物の名前がマスコミをにぎわさない日はないといっても過言ではないであろう.化学物質である毒物・薬物がこのような形で,有名になるのは,本意であるか否かは知るよしもない.しかし,これらの化学物質が,世間的に名をはせるようになった裏には,必ず“人”の手が関与していることを忘れてはならないであろう.化学物質自身が,有名になりたくてしゃしゃり出てきたわけではない.とくに,情報化社会の今日,情報は,好むと好まざるとにかかわらず,ひとり歩き(ひとり走り)をしてしまう.逆に,情報が十分に伝わらずまたは正確に理解されずに,思わぬ結果を招いた問題もある.
最近注目を集めたものに,クエン酸シルデナフィル(バイアグラ)があろう.これは,米国では勃起障害治療薬として販売されていたものであるが,米国においてすでに硝酸薬との併用において重篤な副作用が認められていた.本薬の効果に関する情報は,いち早くわが国でもキャッチされ,医療従事者のみならず一般のひとの知るところとなった.そこで,わが国では,未承認であったが,個人輸入などで持ち込まれ,使用されていたと考えられる.その中で,硝酸薬と併用した患者に死亡例が認められてしまった.両薬剤の併用による死亡例は,米国ではすでに多く認められており,本来はこの2つの薬剤の併用は,十分なる注意をするべきものであったはずである.
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