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『学び その死と再生』と私の歩み
秋田 喜代美
1
1立教大学文学部
pp.930-931
発行日 1997年11月30日
Published Date 1997/11/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663901724
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◎一人称で語る教育
人の胸を打つ小説や物語は,深い洞察に満ち,象徴的である.その物語と現実の自分の生活や人生を重ね合わせることで,自己を振り返ったり,想像の中でこれからの自分の人生を描くことができる.また,時には,心の襞の奥にしまい込まれていた大事な感覚を呼び覚ましてくれる.佐藤学さんが書かれた「学び その死と再生」との出会いは,その働きを私に与えてくれた.それまで混沌としていた私の学びの足跡に生きたことばを与え,教育に携わる研究者としての私にこれからの道を照らしてくれた1冊である.
というのも,教育に関わる研究者が書いた本は,学校や教師を“外”の目でとらえ,学校や教師がいかにあるべきかという「べき論」を,専門用語を駆使しながらお題目のように述べたものが多い.ところが,この本は,佐藤さん自身が自分の学びの原体験を一人称「私」の視点と「私」の言葉で語り,省察の中から新しい学びの道を希求した本なのである.こうした著者の姿勢自体が,これからの教育を考える視点を示唆してくれる.佐藤さんの言葉を借りれば「学校へのあり方の問いとして,一人一人の経験の内側にある学校を吟味し,人生における学校の存在や価値を問い直して,わたしたちの希求する学校のイメージを探索する」というあり方なのである.
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