連載 看護教育新カリキュラムを追って・3
いま,カリキュラムとは何か―カリキュラム試論
カリキュラムの編成主体は誰か?―そして,そこで問われるもの
鈴木 正幸
1
1神戸大学発達科学部
pp.206-207
発行日 1996年3月25日
Published Date 1996/3/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663901337
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1本のバナナから
神戸のある高等学校で行なわれた社会科の授業を紹介しよう.予告や説明は一切せずに,授業の始めに1本のバナナをクラスの生徒たちに与える.授業はバナナを食べることからスタートする.バナナに対する各自の思いがさまざまであることがわかる.それから産地のこと(フィリピン),価格のこと(以前は高価であったが今は非常に廉価),輸入のしくみとその業者(アメリカと日本のみの業者),バナナ農園の実態,そこにおける労働状況(苛酷な様子),生産者たちのくらし(貧困),さらに農薬使用の実態など次々と授業は展開してゆく.「1本のバナナから」の授業は12時間構成である.
どうしてこんなに安く日本で売られているのか,しかも生産者の手にはその安い値段の1割も渡らない.なぜだろうか,若者たちの関心がつのり,探究心が高まっていく.調べるにつれ,怒りや疑問が排出される.こうなってくると,ここでの授業は「教わる」ものでなくなる.授業を通して,教師と生徒が共に学び,共に競い合うのである.
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