Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 参考文献 Reference
はじめに
昨今の看護を取り巻く現状をみると、社会は超高齢化時代となり、それに伴い医療費の高騰化が問題視されている。加えて、国民の健康への意識は高まり、安全で質のよい医療や看護サービスを求める声が強くなってきている。一方、看護界も医療技術の進歩に遅れをとらないように、社会や国民のニーズに対応するよう努力が求められているが、従来からの慢性的な看護師不足は依然として続き、特に最近は新卒看護師の離職率の増加も加わり看護師不足がより深刻な問題になっている。
安全でよいサービスを提供して欲しいという看護サービスの需要側のニーズに対して、よい看護サービスを提供したいという供給側の思いはあるものの、満足のいくサービスの提供ができないという葛藤が生じている状況であるといえる。その状況に対応するためには、ある一部の看護師がスペシャリストになるだけではなく、一人一人の看護師の実践能力を熟練させることで、より良い看護サービスを提供し、国民のニーズに対応していく必要があると考える。
熟練という言葉は、看護界ではあまり用いられていないが、熟練労働者や熟練工のように、日本の労働研究の中ではよく使用されている言葉である。尾高は「熟練とは個人に体化された熟達した仕事の進め方を意味している」1)と定義し、さらに熟練を「判断力や集中力と有機的に関連しており、単に腕の良さや手先の器用さだけのものではなく、技術を所与としたときに、質のよい生産物を的確・迅速に生み出す人的能力で、長い訓練の結果、本人が意識しなくても難なく遂行できる状態」2)であると説明している。この定義は、看護にも適用できる。看護技術を実施することは、判断力や集中力が有機的に関連して行動として表現されることであり、マニュアル通りの手順ができればよいというだけのものではない。熟練した看護技術は、人的能力であり、その人的能力は、長期の訓練により、本人が意識しなくても遂行できる能力を指すといえる。
ここでは、臨床看護師の実践能力の現状を概観し、熟練形成のためのインセンティブとして何がその役割を果たすのかについて私見を述べる。
Copyright © 2006, Japan Society of Nursing and Health Care All rights reserved.