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はじめに
私はYouTubeの“予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」”(略称:ヨビノリ)というチャンネルで、大学レベルの数学や物理をわかりやすく解説する活動をしています。視聴者に対して授業を行うのですが、私は大学時代に教職課程をとっていたわけではなく、大学院生のときも含めて6年ほど予備校講師のアルバイトをしていたので、そこでの経験を生かして授業をしています。YouTubeでの配信は、東京大学大学院の博士課程にいたときに始めました。
授業の配信は、科学の楽しさを少しでも多くの人に伝えて、興味をもってもらうというアウトリーチ活動の一環です。
私は大学生のときに、理系学問を学ぶために入学してきた学生たちが、大学の授業が難しすぎて脱落していったり、勉強や科学そのものが嫌いになっていったりする姿、いわゆる理系大学生の理系離れを目の当たりにしてきました。
大学の授業が難しいと感じる理由には、もちろん、その科目自体が難しいこともあるのですが、もう1つの理由として、大学の授業は非常にわかりにくいことが挙げられます。大学の先生は本来、教育のプロではなく、研究のプロなのですから、それにはしかたがない面があります。しかし、現在の日本の学術研究をお風呂にたとえると、アウトリーチ活動を通じてたくさんの水を注いでいると同時に、浴槽の栓が抜けて水が流れ出ている状態といえます。どれだけ優秀な人材が入っても、ドバドバと抜け落ちてしまう状態なのです。
私は、予備校講師としての経験を生かして、大学生の理系離れを止めたいと思いました。それを、大学とは違うかたちでどのように実現しようかと考えたとき、パッと思い浮かんだのは「予備校のノリでやりたい」ということでした。予備校には教育のプロが雇われています。授業がうまい先生がたくさんいるだけでなく、講師1人ひとりに魅力があり、人間性がおもしろいのです。先生の授業がうまいから学生は集中して、話がおもしろいから科目が好きになって、人間性が好きだからまた受講するという好循環が生まれる。その不思議な空間で、大学レベルの講義を実現したいと思いました。
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