連載 〈教育〉を哲学してみよう・6
「目的―手段」図式を超えて
杉田 浩崇
1
1広島大学 教育学部
pp.72-75
発行日 2020年1月25日
Published Date 2020/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663201410
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マトリックスで描かれる教育の理想?
『マトリックス』というSF映画をご存じだろうか。キアヌ・リーブスが扮する主人公トーマス・アンダーソンは、ある日、自分が生きてきた日常が実は仮想空間であることを知らされ、「本当の世界」に目覚めることになる。そこはコンピュータによって人間の世界が侵食された別空間であり、トーマスは人間の世界を守るため仲間とともに抵抗運動に加わっていく、というストーリーである。そのなかで、トーマスが脳に直接電極を接続し、敵と闘うための知識や技能をインストールする場面がある。驚くべきことにトーマスは、あっという間に別世界のさまざまな事情を熟知し、戦闘のわざを身につけることができる。
さて、トーマスの「学習」を見て、みなさんはどのように感じるだろうか。労なく必要な知識や技能を習得できれば、学習につまずくことなく楽しい学校生活を送れるかもしれない。学習者のさまざまな抵抗に遭遇することなく、快適な教師生活を送れるかもしれない。将来の看護師に必要な知識や技能を多くの学生や実習生が身につければ、医療は一層充実し、優れた専門職者を養成することができるだろう。いや、そのような社会が実現したら、教師の役割が失われてしまうではないか。さまざまな意見があるだろう。
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