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1.序
衆知のごとく,Lysergsäure-diäthylamid(LSDと略記)は種々なる異常体験を惹起せしむるので,最近ではもつぱら実験精神病の研究に用いられるようになつた。ところが,本剤を服用した時の体験をくわしくみると,対象意識の変化に先立つて,まず自己身体に関する身体意識の変容が体験されるのが常である。われわれはこの点に着目し,本剤の少量(25γ〜50γ)を用いて,まず身体意識の変化がどのように起るかを調べようとした。
そもそも自己身体に関する意識の根底には脳病理学的にいうところの身体図式(Körper-Schema)が存在する。この概念はすでにHead,L'hermitte,Van Bogaert,Conrad,P. Schilder,らによつてAutotopagnosie,Apraktognosie,Anosognosie,Gerstmannsche Syndrom,などの解明に導入せられ,実り多き成果をあげてきたのであるが,われわれは前に大橋14)と共に主張したごとく,身体図式というものを「身体の空間像が意識にのぼる限り,それは身体意識または身体心像††というべきで,意識の背後にあつてかかる身体心像を成立せしむる働らきそのものを身体図式と呼ぶ」ことにしている。つまり,身体の空間的定位は決して末梢の諸刺激が中枢に投射されて構成されるといつたモザイック的なものではなくて,個々の感覚的要素に先行する全体的構位が問題なのであり,P. Schilder17))もいうごとく,かかる構位としての身体図式こそ身体意識ひいては自我意識の基盤であるといつてよい。かくのごとくであるから,LSDが身体意識の変化をもたらすものならば,それは当然,身体図式の変容をも惹起しているにちがいない。このような意味からわれわれは身体図式の変容が最も特徴的かつ奇異に表現されていると思われる幻影肢を選び,これに対するLSDの影響を検討してみることにしたのである。
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