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一酸化窒素(NO)は1980年にFurchgottが発見した内皮由来弛緩因子(EDRF)であることが判明し,生体内で極めてユニークな生理活性物質としてにわかに注目されてきた.1988年にはノーベル生理医学賞が循環器系における信号伝達物質としてのNOの発見者としてFurchgott,Ignar—ro,Muradの3名に授与されたのは,これまでの爆発的な勢いで発展しているNOの研究成果からすれば当然のことといえよう.さらにそれ以降も,NOの持つ多彩な生理作用や病態での役割が次々と明らかとなり,その研究領域は生命科学を中心として,医学,薬学,生物,化学など極めて広範な分野に広がっている.これはNOがガス状ラジカル物質であるが故に容易に細胞間や細胞内を移動し,標的分子に作用するために実に多彩な生理活性を示すためである.このようなNOの作用は従来から知られているホルモンや神経伝達物質のようにレセプターを介して作用するものではなく,標的分子に直接作用するユニークなガス状分子種である.しかもNOを生成する酵素(NO合成酵素:NOS)には3種類のアイソフォーム(神経型,内皮型,誘導型)があり,それぞれ組織特異的な発現様式や異なる発現調節によりNOの生成量や機能が制御されている.現在,各NOSアイソフォーム欠損マウスも樹立され,各NOSアイソフォーム由来のNOの役割および病態との関わりも解明されつつある.
このようにNO研究はその機能をめぐって臓器を超えてあらゆる分野の研究者が精力的に行っており,NO関連論文は全科学論文数の約1%を占めるといわれ,その勢いはとどまる所をしらない.このような急速なNO研究の進歩に対して,例えば循環器や呼吸器といった臓器別診療科の専門医や研究者にとって現状をcatch-upするのはいまや困難となっている.掲載される専門誌にしても,発表される学会にしてもあまりにも多く,全ての情報を網羅することは無理といえよう.このような現状を踏まえ,2000年にIgnarroらが中心となり世界のNO関連学会を統合して国際NO学会が発足した.同時に国内でも前田浩熊本大学教授,谷口直之大阪大学教授が中心となり,日本NO学会(NOSJ)が発足した.世界のNO研究の急速な進歩に対応した学術交流や幅広い分野の研究者間での効率の良い情報交換の場とたて本学会が設立されたのは正に時機を得たものといえる.
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