- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
看護学生の医療安全教育において,臨地実習は最も重要な学びの場である。臨地実習に足を踏み入れたと同時に,リスクセンスを働かせ,危険を予知し,基本的な対応をするという一連の行為ができるためには,医療安全教育の早期暴露に始まり,実習目標の難易度,学生の学習到達度に応じた教育内容の設定が求められる。臨地実習において,座学で学習した「型」を学生が再現しても,患者に安全な看護はできない1)。斉藤らは,「さまざまな状況を想定した対応を検討することで,学生の“状況判断力”“実践力”をも育成する機会とすることができる」2)としている。
以前,本誌でも紹介したが3),北海道社会事業協会帯広看護専門学校(以下,当校)では,その“状況判断能力”“実践力”を育成するために,2年次後期実習開始前に,科目「医療安全」1単位(15時間)で,根本原因分析法(Root Cause Analysis,以下,RCA)と医療領域における職種横断的なチーム・トレーニング法(Medical Interdisciplinary Team Training,以下,MITT)を用い,コミュニケーションエラーを中心とした実践的医療安全トレーニングを実施し5年を経過した。RCAのひとつの特徴は,「事例がなぜ起こったのかということを当事者個人の問題だけに終始せず,システムやプロセスに焦点をあてて,事故の発生を再帰的にたどってその背景を検討し,事故の直接原因を究明して改善へと導くもの」4)である。本分析方法を実習前に学習することで,学生が医療安全について楽しく学び,自身のリスクセンスに自信をもち,能動的な学習者に成長する姿がみられている。
今回,「医療安全」1単位(15時間)で得られた学習効果の定着を狙い,実習開始1〜2週間前のオリエンテーションにおいて,再度RCAとMITTを取り入れたフォローアップ講義を企画・実施した。フォローアップ講義は,当校在学生作成の動画を教材とし,インシデント事例視聴後に,RCAを実施して根本原因についてグループディスカッションし,検討した具体策を模擬患者に実施するというプロセスで行った。最後に,模擬患者・学生・教員からのフィードバックと学生からの聞き取りを行った。
学生からは,「原因も具体策も,ひとつではないという学び」「思考が明らかになる喜び」「実習開始前のチームワークの向上」などの学習効果が得られた。学生は,他学生のロールプレイであっても,「今演じている学生は自分である」という感覚をもち,フィードバックに参加し,実体験および疑似体験をとおして“状況判断力”と“実践力”を育んでいる様子がみられた。本稿では,実習オリエンテーションでRCAとシミュレーションを取り入れたトレーニングに一定の効果が得られたので,その取り組みについて紹介する。なお,本稿では,実習に対して,講義のなかでシミュレーションやグループ討議を実施するものを「講義」と称する。
Copyright © 2015, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.