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はじめに
急速な技術革新による労働様態の変化,国際化,年功序列から能力主義・成果主義を主軸にした労働のありかたへの変化,さらに労働者の高齢化など労働を取り巻く環境は大きく変貌を遂げている。この状況下で働く人々の心身の健康課題は複雑多様化し,労働者の健康は侵されやすくなっている1)。そのため,対象者を全人的にとらえ,かつ対象あるいは対象者の主体性を重視し,さまざまな角度からのアセスメントに基づいて活動展開する重要な専門職である産業看護職への期待が大きくなっている。
その期待に応えるためには,「人間」「環境」「健康」「看護」についての幅広い知識に加えて,「労働」「企業」「労働者」「労働環境」「産業保健活動」など,産業看護に関する教育が十分に行われることが必要である。これらの教育を充実させるためには,その基礎としてまず,看護基礎教育での産業看護学教育が大切と考える。
われわれは,看護基礎教育における産業看護学教育は,以下の4点からすべての看護学生が学ぶ必要があると考えている。(1)日本国民の約半数は就業しており(平均6270万人:平成24年労働力調査),看護の対象者の半数以上が労働者であることから,すべての看護専門職は労働の視点をもつ必要がある,(2)看護の視野を広げる,つまり看護専門分野の1つとして産業看護があることを知る,(3)看護職自身も労働者であり,産業保健についての知識や技術をもつことが必要である,(4)将来,産業保健の分野で働かないとしても患者やクライエント(対象者)が働く人であった場合,臨床看護や地域看護の場でも産業看護と連携をとる必要がある。
しかしながら,現在の看護基礎教育においては,産業看護学に関する教育が十分にできているとは言い難い。これまでも看護系大学における産業看護学教育については,いくつかの報告があるものの,看護基礎教育における産業看護学の位置づけの曖昧さの指摘2),産業看護実習を通じての看護学生の学び3), 4)などであり,包括的に看護系大学において産業看護学教育が行われているか,どのような内容が教授されているかといった実態を調査した研究は見られない。これらを明らかにすることは,産業看護学を視野にいれた看護教育体系のモデルカリキュラム構築の一助になると考える。
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