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はじめに
わが国の看護師に対する患者暴力の実態調査を概観すると,精神科看護師を対象にした実態調査が多く,一般病院に比べて身体的暴力の経験率が高い傾向が示されている1)。日本看護協会の暴力対策指針2)においては,看護学生が暴力の被害者となるリスクが高いことが指摘されているが,臨地実習中に学生が患者から受ける暴力の実態については,現在までに,数件の報告があるのみである3─5)。
近年の諸外国での臨床現場で学生が受ける暴力に関する研究を概観すると,380人の看護学生(2年生,3年生,4年生)のうち,臨床現場で暴力を受けた経験率は50.3%,言語的暴力の経験率は91.6%であり,それらの学生の84.3%が怒りや敵意を感じていたことが報告されている6)。また63人の看護学生に,患者の攻撃に対処するためのトレーニングを実施した結果,患者からの攻撃に対する対処能力が向上したことが報告されている7)。
わが国の調査では,看護学生の59.4%(352人)が臨地実習で何らかの患者からの暴力を経験しており,暴力の種類で経験率が高かったのは精神的暴力,次いで性的暴力,身体的暴力であることが報告されている4)。その実習領域では,精神看護学実習,成人看護学実習,高齢者看護学実習で経験率が高いことが示されている4)。また,臨地実習で学生が暴力を認知したのは28.0%(51人),そのうち最も体験した暴力は言葉の暴力(42.2%)であり,加害者は実習先の職員が51.9%であったとの報告もある5)。
実習中に体験した患者からの暴力のうち,学生が最も困った1事例として挙げたのは,性的暴力だったという結果が報告されている8)。このように,看護教育課程の一環として受ける臨地実習中に,学生はどのような暴力を経験し困っているのか,その場でどのように対応したのかを知ることは,今後の教育支援のあり方を検討するうえで意義深いと考えた。
そこで本研究は,学生が提示した暴力場面の分析を通して,臨地実習中に学生が患者暴力を経験し何に困るのか,さらに暴力への対応方法について明らかにすることを目的とした。
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