連載 実習の経験知 育ちの支援で師は育つ・5
学ぶコミュニティ
新納 美美
1
1東京大学大学院医学系研究科
pp.72-75
発行日 2012年1月25日
Published Date 2012/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663101977
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顕微鏡と望遠鏡
私にとってレンズは身近で魅力的なものの一つです。物心ついてはじめて手に取ったのは虫眼鏡だったでしょうか……。少し大きくなってからは,買ってもらった顕微鏡でタマネギの表皮細胞などを見るのが好きでした。天体望遠鏡は高嶺の花よりも手の届かない憧れ……いつかは欲しいと思いながら,ガリレオ式のミニ望遠鏡で月を見ていました。やがて年齢を重ねるとともに,レンズは生活や趣味の道具になりました。視力が落ちてメガネとコンタクトレンズが必需品に……趣味の写真でもカメラの交換レンズは必須アイテムです。
レンズは肉眼と観たいモノとの間に入って見え方を調節してくれます。モノが大きく見えたり小さく見えたりするということは,レンズが自分とモノとの間にある距離を自在に調節してくれているということ。もしもレンズがなかったら,小さいものを大きく見るためには距離をつめなければなりません。大きなものの全体像を観るときはその逆です。それが,レンズを使うと,その場から動かなくてもモノとの距離を縮めたり伸ばしたりできるのです。感覚としてわかりやすいのは天体望遠鏡。それを覗くだけで,ワープするかのごとく星との間にある大変な距離を縮められます。これが顕微鏡だともう少し不思議な感覚が加わります。タマネギの表皮細胞の核を観察しようとして単にその距離を縮めても,レンズがなければ焦点を合わせることができません。核に焦点を合わせることのできる眼をもつには,自分が小さくならなくちゃいけないので,自分がとてつもなく小さくなって細胞の中に入っていくような感覚を覚えるのです。自分が相対するモノと自分との関係性まで変化するような不思議な心持ちです。
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