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はじめに:第100回看護師国家試験の合格発表をうけて
本年の第100回看護師国家試験では,経済連携協定(Economic Partnership Agreement,以下EPA)を通じて来日したインドネシア人看護師候補15名とフィリピン人候補1名の計16名が合格し,前年合格者3名とあわせて19名になった。彼女らにはもちろん,各病院の指導担当者や諸支援団体・サポーターの方々にも心からお祝いを申し上げる。筆者も2007年以来,候補者や看護学校,インドネシア保健省などから個人的に質問・相談を受け,今年3月に起きた東日本大震災では候補者の安否確認や災害情報の翻訳・通訳に追われていただけに,この朗報には随分慰められた。
東南アジア諸国とのEPAによる外国人看護師・介護福祉士候補の来日は,少子高齢化に伴う医療・福祉人材を安価に大量に受け入れるか,あるいは高技能者を選択的に受け入れるのかという,日本の経済・医療政策のせめぎあいの所産だった1,2)。2008~10年に看護455人,介護659人の計1114人が来日している。看護師候補はフィリピン人が看護大卒で3年以上の実務経験,インドネシア人は看護大卒かディプロマ(職業教育)3年課程修了で2年以上の実務経験を要件とし,来日後は6カ月間の日本語研修の後に予め契約していた病院で働きながら3年以内に国家資格を取得しなければならない。このような厳しい条件下で候補者と各病院の学習指導者は必死の努力を重ね,日本語研修を担当する海外技術者研修協会(AOTS)や,受け入れから巡回視察・集合研修まで世話業務をしきる厚生労働省と国際厚生事業団(JICWELS)も支援に莫大な税金を投入したが,本年の日本人合格者が受験者の9割を超えるなか,EPA候補者の合格率は4%(398名中)にとどまった。
このリレー連載(全5回)では,3年間の受け入れ経験からみえてきた課題を,多様な専門分野からEPA候補者の研究・支援に携わる同僚たちと取り上げる。初回は筆者が長年調査を行ってきたインドネシアの医療福祉事情と看護教育の現状を紹介してみたい。というのも,これまでは主に日本語での国試合格の難しさが取り沙汰され,送り出し諸国の苦情・批判もあって,日本側は試験問題の見直しや現地日本語学校開設などの対応をとってきた。また,受け入れ病院によっては専属教師を雇ったり専門学校に通わせたりと,勤務をかなり免除して学習に集中させた。だが,候補者の学習状況や試験結果から,少なくともインドネシア人の場合は日本語力だけでなく看護学知識にもかなり差があり,早期から看護学の集中的指導が不可欠であることが明らかになった。これは個々人の学力だけでなく,日本とインドネシアの看護事情・教育制度の相違に起因するところも大きいので,勤務先やサポーターから十全の支援を受けたにも関わらず伸び悩む候補者も多い。このように,学習・職場適応支援には日本語教育・看護学・地域研究などの学際アプローチが不可欠であり,多方面がいかにして協力体制を築いていくかが鍵といえる。
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