連載 もうひとつの国境なき医師団・12
医療から覗いたインドネシア
東梅 久子
pp.1046-1047
発行日 2005年7月10日
Published Date 2005/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409100382
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性感染症診療所の困難性
貧困層の女性の性産業従事者を主な対象とした性感染症診療所は,さまざまな問題を抱えていた.なかでも問題になったのは,少ない患者数である.対象とした売春地域で働く女性の性産業従事者は,地域差があるものの一地域の平均は数百人,これに対してジャカルタ市内5か所の診療所の受診者数は,1日平均数人から十数人であった.
診療所開設から2年,診療所の認知度は口コミの情報網が発達している性産業従事者のなかにあって決して低くない.定期的に売春地域を巡回して,性感染症および診療所の情報提供,コンドームの無料配布などを行っている.対策として家庭訪問の実施,診療所および路上でゲーム形式の教材を用いた性感染症の情報提供などを試みたものの,なかなか効果は現れない.概して性産業従事者の健康に対する意識は高いとはいえない.タバコを買うお金はあっても,それより少ない無料診療所を受診するバス代はなかったりする.現地スタッフの間には,性産業従事者の怠慢を理由にした諦めが漂っていた.そのなかで,予想外の効果を上げたのがpeer educatorである.理解力のない患者を教育してどうするのかという高学歴の現地スタッフの考えは,小学校卒の髪を金色に染めた中年の性産業従事者によって覆された.バルトリン膿瘍で手術を受けた彼女は,自分と同じ思いを他の人たちに味あわせたくないと,同じ地域で働く性産業従事者を啓蒙し,診療所に連れてくるようになった.それを機に,受診者数は徐々に増加し始めた.
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