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はじめに─“エール”として
看護教育に携わる教員のほとんどが感じているように,近年の基礎看護教育現場では,男子看護学生はけっして珍しい存在ではない。臨床現場でも,地域差や病院差はあるにせよ,各科において男性看護師が活躍するのを目にするようになった。しかしながら依然として,看護界における男性はマイノリティである。看護職員に占める男性割合は増加の一途をたどってはいるものの,2008年のデータでは,看護師就業者数に占める男性の割合は5.1%であった。
マイノリティには,次の2つの意味がある。1つは少数派であり,2つ目は弱者である。この意味に照らすと,男性看護師は明らかに少数派である。しかし,完全な弱者とは言い切れない。なぜなら日本社会で支配的な(dominant)性別は男性だからである。看護界は女性支配なので,男性看護師は弱者の体験に特徴的な抑圧や困難に少なからず遭遇することだろう。しかしそれは,男性並みに働こうとする女性が日本社会で遭遇する困難さと近似するものの,男性看護師にはそこから脱却できる可能性は高く残されている。上野千鶴子氏(社会学者)の言によれば,「ある職業に女性が多く参入すると,その職業の社会的地位が下がる」(=「男性が参入するとその職業の社会的地位が上がる」)というのが社会学的に妥当な見方であるという。この見方からすると,女性が95%を占める看護職は社会的地位が低く,多くの男性を参入させないとその地位を上げることはできないということになる。筆者もこれまでの研究活動1, 2)から,看護職がより高い専門職性を有し,より高い社会的地位に到達するためには,看護という職業に付与された女性的イメージを払拭することが重要であると考えてきた。その意味でも,男性看護師の存在は日本の看護界にとって極めて重要なのである。
そこで本稿ではまず,男性看護師サバイバルの武器となりうる“性別”とそれを位置づける社会背景についてジェンダー論的に考察し,次にサバイバルの可能性を例として紹介したい。さらに本稿が,その存在の重要性を増し続けるに違いない男子看護学生と男性看護師に対して,女性教員である筆者からの辛口のエールとなれば嬉しく思う。
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