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はじめに
聴覚障害をもち看護師を目指す方や看護学生との相談場面において,「聴覚障害をもっていると,看護師になれないのですか」と,たびたび聴かれます。「聴覚障害があっても,看護師になれるのですか」と聴かれることは,ほとんどありません。
2001年に欠格条項が絶対的なものから相対的なものへと改正されたことを知りつつも,これらの質問はなされ続けています。ちなみに相対的な欠格条項とは,「障害により業務を適正に行うことができない者も,適切な手段を用いて修学・就労できれば免許を付与されること」を指しますが,この情報を得ていようとも,「なれないのですか」という表現を用いるのです。そのような表現を用いる理由を尋ねると,多くの方は看護教員よりアドバイスをされたといわれます。このようなことが続くため,看護教員は「聴覚障害をもつ者は看護師になれない」という思い込みや偏見をもっていると感じざるを得ません。
教員側より見ると,患者さんの生命を護るという使命を有する職務の特性上,聴覚は必要不可欠であるという観点より,アドバイスに至ったことは容易に想像できます。しかし,障害者自立支援法に基づく社会参加の促進や,障害の有無に関係なく自己実現のできる現代日本において,このようなアドバイスは,適切なものといえるのでしょうか。看護教員自ら,聴覚障害を生じるかもしれないという当事者側の視点をもたれたことはあるのでしょうか。
私は,聴覚障害をもつ看護師です。両者の世界を共有しつつ生きています。右耳は中途失聴しており聾者,左耳は中等度の聴こえとなっています。左耳に装用中の補聴器は大切なパートナーです。看護師としての就労は難しいといわれ,かつ自覚もしつつ,10年近くのキャリアを積むことができています。もちろん,聴覚障害に由来し,明らかにこなせない職務もありますが,聴覚障害をもつ看護師であるからこそできる看護があるという独自性を実感しています。
看護教員の思い込みや偏見により,看護師への道が閉ざされることのない看護教育界を創りたい一心より,本稿をまとめます。
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