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はじめに
看護教育,特に精神看護教育において,思い込みや偏見の扱いは簡単ではない。一般的に,思い込みや偏見を持ってはいけないといった指導・教育がなされている場合は多く,看護学生に「精神障害者に対する偏見はありませんか」と問うと,決まって返ってくる言葉は「偏見なんてありません」という言葉である。そうした場合に,「電車のなかでぶつぶつ言っている人があなたの隣に座ったらどうします。逃げませんか」と質問すると,多くの学生は「逃げます」と答えるのである。結局,精神障害者に対する「区別」をしているのであるが,気がつかない。こうした「区別」は偏見に基づくものであり,「偏見はありません」といっていることと矛盾しているのである。
現場にいた頃,同様の質問を見学に来たある看護大学の学生数名にしてみたところ,彼女たちは「偏見はまったくありません」と元気に答えた。あまりにきっぱり答えているので,よくよく聞いてみると「偏見を持ってはいけない」と大学のある教員が学生に指導したらしい。そのため彼女たちは,偏見があったとしても「偏見はない」という嘘をつく羽目に陥ったのである。
偏見を持たないほうがよいという教育は,実際は偏見を持っている学生にとっては大きな負担となっているのではないだろうか。現在持っている偏見をどうしたらよいかについては一切触れず,ただ偏見を持ってはいけないといわれたら,学生はどう対処してよいかわからなくなる。
本稿では,思い込みや偏見について考察し,看護における思い込みや偏見の教育をどうすべきであるかについて解説する。ここでの思い込みや偏見の対象は精神障害者を想定しているが,精神障害者以外に対する思い込みや偏見についても同様であろうと考えられるので,参考にされたい。
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