特集 リハビリテーションと心理
偏見と差別
なだ いなだ
pp.474
発行日 1975年6月10日
Published Date 1975/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552103353
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アル中患者の治療をして来た個人的な体験から考えることなのだが,人間はまず偏見を持ち,それにもとづいて差別するのではないように思う.まず,差別したいのだし,それを正当化するために,偏見を作りだすのだ.たとえば,患者を連れて来る家族は,患者をやりきれなく思っている.それで病院に入院させてしまいたい.ただ,その一心なのである.だから,医者のぼくにいう.
「あの人は,くるってますよね.きちがいですよね.アル中でしょう」
そして,ぼくの同意を求めようとする.しかし,ぼくが,
「で,あなたは,アル中とは,どういうものだと思いますか」
と質問すると,当惑した表情で,さあ,と考えこんでしまう.
同じように,人々は,自分が理解できないため,なにをするかわからない人間をこわがる.その人間を隔離したい,そこで,なにをしでかすかわからない人間を狂人と呼ぶのだ.そして,精神病と名がつくものは,みんな,なにをするかわからない怖しい人間だと,考えを発展させる.
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