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はじめに
質的研究とは,自然な状態で,研究者と研究参加者が相互作用をするなかで行われ,文字データを用いて帰納的に探求する研究である1)。このように定義すると,看護学教育に関する研究も,もちろん質的研究を行うことが可能であるが,どのような場合でも質的研究が適しているということではない。
Barkerら2)は,質的研究を用いるときは,1)研究領域が比較的新しい,あるいは研究しようとしている現象についてほとんどわかっていないとき,2)自分が研究しようとしている研究領域のなかで混乱があったり,矛盾があったり,あるいは研究が前進していないと思われるとき,3)研究課題が非常に複雑な出来事やプロセス,あるいは人間の経験であり,注意深い定義や記述が要求されるときである,としている。このような状況のいずれかに当てはまるとしても,看護学教育に関する研究の場合,相互作用をするのが教師と学生(単位認定者と被単位認定者)という場合も多く,倫理的な問題が予想され,質的研究が実施できないこともあると思われる。
本稿では,看護学教育研究に限定せず,質的研究全般において生じやすい落とし穴と,それにはまらないために気をつけることについて述べる。質的研究は,量的研究と同様に,あるいはそれ以上に落とし穴にはまりやすいと言えるが,落とし穴にはまる経験から学ぶことも多くあり,それを怖がる必要はないと思う。しかし問題は,落とし穴にはまっている現実に気づかないことにある。研究は,それに参加してくれる人がいて初めて成り立つ。それを考えると,落とし穴にはまったまま,そのことに気づかずに研究を終えるわけにはいかない。では,質的研究にはどのような落とし穴があり,どうすれば避けられるのだろうか?
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