第2特集 看護学生論文―入選エッセイ・論文の発表
論文部門
看護師の誠意がはまる落とし穴―多飲水が見られた統合失調症患者との関わりを通して
岡本 紘子
1
1姫路赤十字看護専門学校
pp.650-653
発行日 2011年8月25日
Published Date 2011/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663101843
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はじめに
A氏は統合失調症妄想型と診断され,入院から5年が経過している。現在,顕在化している問題は多飲水である。血中の電解質低下が生じたため,行動制限が必要となり,夜間は隔離状態となっている。
私は,退院したいというA氏の希望を応援したいと思った。そして,その実現の第一歩である隔離解除を看護目標に定めた。隔離解除の条件である「1日の体重増加を1 kg以内に抑え,それを1週間継続する」ために,体重のグラフを作成し,A氏自身が値を記入することで,体重の変動を意識してもらおうと考えた。A氏は飲水量を自己管理できると信じ,多飲水を強く指摘する,飲水行動を監視するなどの強迫行動は慎もうと思って関わった。誠意をもって,A氏にとって良いと思うことを実施してきたつもりだった。
グラフの記入を開始して数日間は,体重の維持目標が継続できた。しかし,実際のところ,A氏は緩下剤による頻回の排便や下痢に頼って体重を減らしていた。それを知って,私はA氏に裏切られたような思いがした。このときを境にA氏に対して不信感が生まれ,飲水量を自己管理することは無理なのではないかと感じ始めた。そして,水中毒からA氏を守らなければならないという使命感をさらに強め,A氏の意識を変えようと挑む姿勢になっていった。
A氏との関わりを振り返ることで,A氏にとって良いと信じてきた方法が,結局は私の型にはめようとする行為だったことに気づいた。看護師は,「患者のため」という気持ちから,権威をもって,患者の自由意思や自己決定権を押さえつけてしまう危険性があるのではないかと考えた。
なお,発表するにあたり個人が特定されないように配慮した。
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