連載 生体と「流れ」・【最終回】
呼吸の流れ
木村 直史
1
1東京都慈恵会医科大学薬理学講座第2
pp.268-269
発行日 2006年3月1日
Published Date 2006/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663100244
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呼吸器をもたない生物
呼吸機能の本質は生命活動に必要な酸素(O2)を取り込むことであり,呼吸器はガス交換のためにとくに発達した器官である。呼吸器の重要性は,呼吸器を持たない動物を調べてみるとよく理解できる。呼吸器も循環器もないプラナリアという生物は,体表面からの単純拡散のみでO2の摂取を行っているので,この仲間(扁形動物)はすべて平たい形をしており,厚さ0.6mmを越えるものはいない。それは,単純拡散で必要なO2が到達するのは表面から約0.6mmにすぎないからである。ところが,鰓にせよ肺にせよ,呼吸器を獲得した動物は,その体を著しく巨大化させることができた。ジンベイザメは最大18m,シロナガスクジラは31mに達する。大きさだけではない。大地を疾走し,大空を飛行できるのも呼吸器を備えているからである。
空気の流れと呼吸
生命は海から誕生したが,水中での呼吸はひどく効率が悪い。水に溶けているO2は空気の約1/30しかないので,絶えず換水していないと酸欠状態に陥ってしまう。しかも水は密度も粘度も高いので,呼吸媒体(水または空気)の流れ,すなわち呼吸流を作るのに多くのエネルギーを消費する。マグロなど高速遊泳魚は呼吸流を作るために絶えず口を開けて泳いでおり,泳ぐのを止めると酸欠で死んでしまう。水呼吸の器官である鰓は同時にラジエーター(水冷装置)と同じ構造でもあるため,体温(熱)も奪われやすい。水呼吸の唯一の利点は,呼吸に伴う水分喪失の心配がないことである。
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