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登場人物
A 大学教師:教育関連学部で社会学を教えている。50歳台,男性。
B 大学生:教育関連学部の4年生。20歳台,男性。
はじめに
A 今回は,学力低下問題について考えてみましょう。21世紀に入ったあたりから,学力低下問題が非常に大きな教育問題になってきました。この連載では,これまで扱ってこなかったので,ここで少し詳しく検討してみたいと思います。
学力低下問題というのは,僕にとってもう一つピンとこないというか,今でもさほど切実な問題ではないのですが,これだけ大きな問題になったのは,やはり,どこか人々の心に届くところがあったのでしょう。
ただ,前回取り上げた「有害図書問題」とちがって,あまり歴史のない問題であることは間違いありません。戦後ずっと問題にされてきたのは,中学生や高校生に重くのしかかる勉強や受験・進学の重圧をどうやって取り除くことができるかということだったので,勉強が足りないんじゃないかとか,このままでは日本の将来が心配だという発想は,1980年代頃までは,聞いたことがありませんでした。どうして,学力低下問題がこれほど大きく取り上げられるようになったのか,そこには現在の日本社会のあり方がなにか関係しているのではないか,そのあたりのことも含めて,この問題を考えていきたいと思います。
B 学力低下と言ったとき,とくにどの学校段階を問題にしているのですか?
A 小学校から大学までのすべての学校段階だと思います。ただその中でも,大学に1つの焦点があります。日本の教育問題で,大学が大きく取り上げられるのは,実はめずらしいことなのです。これまで,中学校や高校の問題を取り上げられることが多かったのですが,学力低下問題では,大学教育も問題にされています。
B 今回はどんな資料を使うのですか?
A 2001年に岩波書店から刊行された『学力低下と新指導要領』という本を取り上げたいと思います。経済学者で京都大学教授の西村和雄さんが編者で,他に4人の人が執筆しています。数学者が3人と精神科医の和田秀樹さんです。西村さんは,『分数ができない大学生』『大学生の学力を診断する』『ゆとりを奪った「ゆとり教育」』といった本も書いています。
B どうして,この本を取り上げるのですか?
A このグループの問題提起が,昨今の学力低下問題のきっかけの1つになったと考えるからです。実際,非常に大きな影響力をもちました。この本は2001年の刊行で,もう4年たっていますし,主張されていることの是非を問うこともできる時期にきています。
B どんな特徴をもった本なのですか?
A 岩波ブックレットのなかの1冊で,全体で62ページの小冊子です。もともと,5人が雑誌に書いた文章をまとめたもので,主張が簡潔にわかりやすくまとめられています。この岩波ブックレットのシリーズでは,佐藤学,苅谷剛彦といった教育学者の学力論も出版されています。いろいろな考え方が比較できて,大変おもしろいと思います。
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