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はじめに
現在,「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」により,2002年4月から精神保健福祉業務が保健所から市町村に移管される予定である1,2)。従来より,保健所は地域と精神病院の中問的存在として,地域在住の精神障害者(以下,障害者)の生活の介護やケアを行ってきた。そのなかで,医学的には入院治療の必要性が少ないにもかかわらず精神病院に入院している(以下,社会的入院)障害者の地域での受け入れの是非が,繰り返し検討されてきた。
社会的入院は適正医療とは言い難く,医療者ばかりでなく,障害者にとっても望ましいものではない。それは,社会的入院は障害者のノーマライゼーション(normalization)を妨げるだけでなく,不必要な施設および薬物使用により医療費の増加にもつながる。社会的入院の問題は市町村で実施されている福祉事業と密接に関係しており,精神保健福祉業務の市町村への移管が近づくにつれ,福祉分野も含めた議論がよりいっそう深まるものと思われる。しかしながら,地域での精神保健福祉活動を理解する精神科医,精神科ソーシャルワーカー(Psychiatric Social Worker,以下,PSW)などの専門家がいない市町村もあり,現場での意見が無視され,閉鎖的な会議などで問題が表面的に処理される可能性もある。
過去において社会的入院に関してはいくつかの調査研究が実施されている3-6)。しかし,それらは精神病院など施設職員による調査研究であり,地域で活動する者の視点より調査した資料は探し出すことはできなかった。社会的入院の処理には,施設および地域の両面よりの検討が望ましいのはいうまでもない。そこで,本調査研究は,地域で精神保健福祉活動に従事している保健所保健婦の視点より,高知県A市において社会的入院の実情を明らかにしたものである。2002年の実施を前に,市町村における精神保健福祉業務を検討される際の基礎資料となることを願っている。
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